書道用紙について
書道半紙の紙の要素
書道半紙をお使いになるうえで知っておきたい紙の小話
![紙が枯れることについて](https://www.togawaseishi.com/pic-labo/kamigakareru.jpg)
書家は年月を置いて枯れた紙を好みます。
和紙は抄紙後、時がたつにつれて、寸法と滲みが安定し、使いやすくなります。
このことを紙が「枯れる」と呼び、科学的には苛性ソーダなどで傷つけられ
不安定な状態にあるセルロース繊維が空気中の酸素などを取り込んで
安定な状態に落ち着くことを意味しています。
これは繊維を苛性ソーダなどの薬品で急速に処理する限り、避けがたい事です。
(苛性ソーダは、繊維を膨張させ内部によく浸透しリグニンなどの
繊維についた樹脂類をよく分解しますがセルロース自身も浸します。
また、亜硫酸ソーダなどは苛性ソーダと比べ浸透速度がやや遅く、
液の成分が変化しやすく、セルロースを浸しにくいが、樹脂分も分解しにくいのです。)
しかし、乾燥時に紙をできるだけ引っ張って乾かせば、吸湿による伸びの少ない紙ができ、
吸湿と放湿を繰り返す処理をすれば、寸法の安定な枯れた紙も作れます。
![紙の変色について](https://www.togawaseishi.com/pic-labo/henshoku.jpg)
書でも何でも、紙に書かれた記録や作品は長期にわたる保存を要求されます。
そしてそこでは変色の少ない紙が重用されます。
紙の変色はセルロースの酸化と残留リグニンが光と酸素の作用で変質し、
色素になることによって生じます。
洋紙は原料の木材パルプに不純物が多く、機械によって繊維が傷つけられ、
添加薬品が繊維の変質を助長するため、また木材パルプにリグニン含有量が多い為、
非常に変質しやすくなります。
その点、和紙の靭皮繊維は非常に長く分子量の大きい重合度の高い繊維で、
リグニン含有量も微小ですから、非常に変色しにくいわけです。
紙の寿命のはなしでよく、洋紙百年和紙千年といわれるほどに和紙の寿命が長いのは
この理由によるのです。
(セルロースは、元来、非常に酸化されにくい物質ですが、重合度が低かったり、
不純物が多いと末端の還元基より酸化を受けます。)
![寒漉きの紙について](https://www.togawaseishi.com/pic-labo/kanzuki.jpg)
古来より、和紙は寒漉きのものが良しとされています。
これは、寒い時期には、水温が低く、不純物の溶解度が低く、純粋な製品が作れるし、
バクテリアも発生せず、ネリもよく効くからです。
しかし最近の抄紙には水温のあまり変わらない井戸水を使ったり、
ネリの貯蔵薬品が良くなっていますので、現在では夏でも寒漉きとあまり変わらない紙が
できています。
![](http://image.rakuten.co.jp/hanshiya/cabinet/02259137/03093104/imgrc0063273507.jpg)
![製紙側の対応](https://www.togawaseishi.com/pic-labo/seishigawa.jpg)
書道の紙にはこれが絶対に誰にも適するといった紙はありません。
書き手の腕や書風によってそれぞれに適した紙があるわけで、それが書道の紙を多くしています。
たとえば、多くの書家に愛されている中国の宣紙はその原料のセルロース繊維を傷つけぬように約 10か月近くもの時間をかけ、ゆっくりと原料を処理し、また抄紙時の水が硬水でもあるために枯れた紙 (セルロース繊維画安定した状態にあり、寸法の安定した紙)ができています。
原料はたん皮と呼ばれるニレ科の樹の比較的短い靭皮繊維が主で、繊維密度が高い為、 薄い紙で緻密なにじみが得られますが、反面、強度的に弱く、紙が筆にくっつきやすく、一般的には書きづらいようです。
和紙の特徴は、セルロースの重合度が高く、長い靭皮繊維を原料として使用し、抄紙法が流し漉きである点で、 他に類を見ない薄くて、強靭な紙ができます。
そして、この和紙にも墨書きのために、書きやすく、 墨色・にじみを良くするいろいろな試みがなされています。
つまり、紙面を滑らかにするために、石、 貝殻、動物の牙、椿の葉などでこすったり、紙に米の粉を添加したり(墨と米の澱粉のくっつきやすさを利用)、 粘土を混ぜたりした紙もあります。
でも、根本的に良い書道の紙を作る基本は蒸解による紙の繊維の浸水性・ 紙との親和性(繊維中のヘミセルロースやリグニンの含有量に関係)と叩解程度と方法とに関連した繊維の太さ・長さと 紙面の繊維密度等に影響を受ける紙面上での墨の横方向への拡散性と縦方向内部への浸透性のバランスを うまくとることが肝心です。
ふつう強靭繊維のセルロースは重合度が高く、また木材パルプは繊維に残留付着しているリグニンなどの 関係で側面からの給水は起こりにくく、墨を繊維長さの方向に誘導します。
また紙の吸水性は、繊維の切断面で生じています。従って書道の紙に関しては、紙の強度には反比例しますが、 滲みや地合いの点でできるだけ繊維を傷つけずに短く切り(遊離状叩解し)(ただしかな用は逆) 墨色の深さや立体感を出すために、その短く切った繊維を立てたほうが良いようです。
またこの滲みの点では、何回も再生され、リグニンが取れ側面からも吸収するようになった故紙パルプをうまく 利用している紙もあります。
ただし、同じパルプでも資源の関係で比重が針葉樹から短繊維の広葉樹に移っていますし、木の種類、 伐採時期(夏に切った幾何、冬に切った木か)シーズニングの長短、導管の有無。蒸解法等によって毎回同じ原料が 入ってくるはずもなく、製品として常に同じ墨つきの紙を供給するためには、多くを経験による人の勘に頼らねば ならないのも事実です。
和紙の墨つきは非常に微妙なものです。
蒸解から乾燥まで、 すべての工程の影響が紙の性質に現れますし、色紙等の紙製品に仕上げる場合にでも、 合紙機のローラー圧や張り合わせに使う糊によっても、その墨着き、書き味は大きく違ってきます。
今後の定量的な研究を俟つことの多い分野です。